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東京地方裁判所 昭和52年(ワ)5711号 判決

原告 中村栄一

右訴訟代理人弁護士 山田重雄

同 山田克巳

被告 藤山榮子

主文

被告は原告に対し、一一五万二八八〇円及びうち六〇万円に対する昭和五二年七月二日以降、うち五五万二八八〇円に対する昭和五四年五月一七日以降各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

主文第一、二項同旨の判決並びに仮執行の宣言

二  被告

(本案前の申立)

1 原告の請求を却下する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

(本案の申立)

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

第二当事者の主張

一  原告(請求原因)

1  原告は、別紙物件目録一(一)記載の土地(以下「第一土地」という。)を所有し、これを被告、訴外高島泰治、同高島幸一、同高島弘、同高島晃及び同松山照枝に賃貸し、被告らは、同地上に同目録二(一)記載の建物(以下「第一建物」という)を所有していた。

また、原告は、同目録一(二)記載の土地(以下「第二土地」という。)を所有し、これを藤山リヨ(以下「リヨ」という。)に賃貸し、同人は、同地上に同目録二(二)記載の建物(以下「第二建物」という。)を所有していた。

なお、リヨと被告は親子であり、第一建物に同居していた。

2  被告らは、昭和三九年六月一日以降第一土地の賃料月額一、六二〇円を支払わず、また、リヨも同日以降第二土地の賃料月額一、四〇〇円を支払わなかったので、原告は、昭和四四年五月、右延滞料の支払いを催告するとともに、催告期間内に支払いがないことを停止条件とする各賃貸借契約解除の意思表示をしたが、催告期間内に支払いがなかったので、右各賃貸借契約は解除された。しかるに、被告らは右各土地を明渡さなかった。

3(一)  そこで原告は、やむなく東京弁護士会所属の山田重雄弁護士及び山田克巳弁護士に被告らに対する建物収去土地明渡訴訟の提起・追行に関する訴訟行為を委任し、同弁護士らを訴訟代理人として、昭和四四年八月二五日東京地方裁判所に被告らを被告とする建物収去土地明渡請求訴訟を提起したところ(同庁昭和四四年(ワ)第九二二二号事件)、被告及びリヨが応訴したが、審理の結果、昭和四九年二月二八日原告全部勝訴の判決を得た。

(二) 右訴訟係属中、被告らが占有名義を移転したり建物を処分するおそれがあったので、原告は、昭和四六年五月二四日右両弁護士に占有移転禁止及び処分禁止の仮処分手続を委任し、右両弁護士は、同年六月四日同旨の仮処分決定を得て(東京地方裁判所同年(ヨ)第三八二五号事件)、その執行をした。

(三) 被告及びリヨは、前記第一審判決を不服として東京高等裁判所に控訴したので(同庁昭和四九年(ネ)第六二〇号事件)、原告はやむなく、右両弁護士に訴訟行為を委任して、応訴したが、審理の結果、昭和五一年六月二四日控訴棄却の判決を得た。

(四) ところが、被告及びリヨは、更に右判決に対して上告したが(最高裁判所昭和五一年(オ)第一〇二二号事件)、昭和五二年四月二六日上告棄却の判決言渡があり、前記第一審判決が確定した。

(五) これにより、被告は第一建物を収去して第一土地を明渡すべき義務が、また、リヨは、第二建物を収去して第二土地を明渡すべき義務がそれぞれ確定したにもかかわらず、任意にその履行をしなかった。

そこで原告は、やむなく昭和五二年六月一七日東京地方裁判所執行官に強制執行の申立をした。執行官は、被告及びリヨに対し再三任意の履行を催告したが、被告らが共同してこれを拒否したため、同年七月一四日第二土地について建物収去土地明渡の強制執行を了し、続いて昭和五四年三月五日までの間数回に分けて第一土地について強制執行をしたが、被告らは、最後まで第一建物から任意に退去せず、強制執行に抵抗し続けた。

4  被告らは、前記訴訟(以下「前訴」ということがある。)において種々賃料不払いの正当化事由を主張し、また、第二審においては、本件各土地の占有権原が賃借権であるとの主張を撤回して、地上権があると主張するに至ったが、いずれも全く根拠のないものであって到底容認されるところとならなかった。

5  このように、被告は、リヨと共同して、不法に本件各土地を占有して明渡さず、かつ、その明渡を引き延ばすため不当に応訴し、第一審で敗訴した後も不当に控訴、上告したばかりでなく、判決確定後も明渡義務を任意に履行せず、執行官による強制執行に対しても最後まで執拗な抵抗を続けたものであって、かかる被告の行為が不法行為を構成することはいうまでもないから、被告は原告に対し、右不法行為によって原告が被った次のような損害を賠償する義務がある。

6(一)  原告は、法的知識が極めて乏しく、しかも会社役員として重責を担っている関係上、建物収去土地明渡訴訟という、専門化、技術化されている訴訟の中でも極めて難しい部類に属する訴訟を自ら追行することが困難であるところから、叙上のとおり前訴の提起・追行を弁護士に委任することを余儀なくされ、前記両弁護士に対し、東京弁護士会の弁護士報酬規定所定の基準内で、手数料及び謝金として、次のとおり合計一三〇万円を支払った。右弁護士費用は、被告の前記不法行為と相当因果関係のある損害というべきである。

(イ) 昭和四四年八月一三日 前訴第一審の手数料(着手金)として三五万円

(ロ) 昭和四六年五月二四日 前記仮処分申請事件の手数料として一五万円

(ハ) 昭和四九年五月一七日 中間報酬(謝金)と控訴審の手数料を兼ねて一〇万円

(ニ) 昭和五二年六月二二日 報酬として七〇万円

(二) 原告は、前記強制執行の費用として、右執行期間中に執行官に対し合計五五万二八八〇円を支払った。これは、被告らが前記確定判決に基づく義務を任意に履行しておれば出捐を要しなかったものであるから、被告はこれを賠償すべき義務がある。

7  よって、原告は被告に対し、右弁護士費用一三〇万円のうち六〇万円と右強制執行費用五五万二八八〇円との合計一一五万二八八〇円及びうち六〇万円については不法行為の後である昭和五二年七月二日以降、うち五五万二八八〇円については同じく昭和五四年五月一七日以降各完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  被告

(本案前の主張)

本件は、前訴と訴訟物を同じくするもので、前訴の確定判決に牴触するから、許されないものと考える。

(請求原因に対する答弁)

1 請求原因1のうち、原告が第二土地を所有していること、リヨと被告が親子であり、第一建物に居住していたことは認めるが、その余の事実は否認する。

2 同2の事実は認める。

3(一) 同3(一)のうち、原告がその主張のような訴訟を提起したこと及び原告勝訴の第一審判決がなされたことは認めるが、その余の事実は不知。

(二) 同(二)のうち、被告らが占有名義を移転したり建物を処分するおそれがあったことは否認するが、その余の事実は認める。

(三) 同(三)及び(四)の事実は認める。

(四) 同(五)の事実は否認する。

4 同4及び5は争う。

5(一) 同6(一)のうち、原告がその主張のような弁護士費用を支出した事実は不知、その余の事実は否認し、主張は争う。

(二) 同(二)の事実は否認し、主張は争う。

6 同7は争う。

第三証拠《省略》

理由

第一被告の本案前の主張について

被告は、本件と前訴の訴訟物が同一であるとして、本件は前訴の確定判決に牴触する旨主張するけれども、前訴の訴訟物が賃貸借終了に基づく建物収去土地明渡請求権であるのに対し、本訴の訴訟物は不法行為による損害賠償請求権であって、その間に同一性のないことが明白であるから、被告の本案前の主張及び申立は失当である。

第二本案について

一  《証拠省略》を総合すると、次のような事実が認められる。《証拠省略》中右認定に牴触する部分は措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

1  第一土地及び第二土地は、原告が亡父中村島吉(以下「島吉」という。)から相続によってその所有権を承継取得した。(第二土地が原告の所有であることは、当事者間に争いがない。)

2  第一土地は、被告の先代高島太吉(以下「太吉」という。)が、昭和一五年頃島吉から普通建物所有の目的で賃借し、同地上に第一建物を所有していたが、太吉が昭和二四年一二月五日死亡したため、他の相続人らと共同してであるか被告単独であるか、また相続によってであるか死因贈与によってであるかはさて措き、被告が右賃借権を第一建物の所有権と共に承継取得した。

3  他方、リヨは、昭和一九年頃第二土地を島吉から賃借し、その地上に第二建物を所有していた。同人と被告は親子であり、第一建物に居住していた。(右事実は当事者間に争いがない。)

4  被告は、昭和三九年六月一日以降第一土地の月額一、六二〇円の賃料を支払わず、被告以外の太吉の相続人である訴外高島泰治、同松山照枝並びに太吉の相続人で相続開始後に死亡した訴外高島多喜子の相続人である訴外高島幸一、同高島弘及び同高島晃の何びとからもその支払いがなされなかった。また、リヨは、右同日以降第二土地の月額一、四〇〇円の賃料を支払わなかった。(被告及びリヨの右各賃料不払いの事実は、当事者間に争いがない。)

5  そこで、原告が被告及びリヨに対し右各賃料の支払いを催告したところ、右両名は、次のような理由があるためその支払いに応じられない旨回答した。すなわち、被告の賃料不払いの理由は、昭和三八年一〇月頃第一土地に近接する新宿区高田馬場四丁目七五四番地の宅地を買い取って同地上に建物を建築した訴外飯笹はなが、第一土地のうち第一建物の通路にあたる七五五番の二及び同番三の部分(以下「本件通路部分」という。)の地下に被告に無断で下水管を埋設し、同土地部分を通路として使用するようになったから、地主である原告においてこれを取り止めさせるべきで、それが実現するまで賃料を支払えない、というものであり、また、リヨの賃料不払いの理由は、同人が第二建物からの排水を北側道路の下水本管に流すための下水管を第二土地の東端添いにあった元の下水溝の位置に埋設しようとしたところ、隣接地住民の訴外谷口清太郎及び同中村正治がこれを妨害したため、第二建物からの排水ができなくなったから、地主である原告において右妨害行為を排除すべきものであり、それがなされるまでは賃料を支払えない、というものであった。

6  しかし、本件道路部分は、大正年間から隣接地の所有者や居住者によって北側道路に出るための通路として使用されてきたものであり、太吉もそのことを承知のうえ第一土地を賃借し、その後も右隣接地居住者らの通行や本件通路部分にガス管、水道管、下水管が埋設されることに何らの異議も述べず、これを容認してきた。太吉の死亡後被告が第一建物に居住するようになってからも、当初は格別の紛議もなかったが、昭和三四、五年頃隣接地居住者の訴外藤森丑五郎らと被告との間で本件通路部分の通行を巡って紛争が生じ、原告も利害関係人として参加して解決に努めた結果、昭和三七年二月、訴外藤森らの本件通路部分の通行権を認める趣旨の訴訟上の和解が成立した。そして、昭和三九年三月には、訴外飯笹はなの申請に基づき、被告に対し本件通路部分の通行妨害禁止を命ずる仮処分決定がなされた。しかして、訴外飯笹はなの下水管埋設及び本件通路部分通行により、被告の第一土地の使用に格別の支障が生じるということはなかった。

また、訴外谷口清太郎及び同中村正治がリヨの下水管埋設を妨害した事実は全くなく、むしろ真実は次のとおりであった。すなわち、第二土地所在の町内一帯で便所の水洗化に伴い一斉に下水施設の改善工事が行われることになったところから、右両名がリヨ及び被告に対し、共同で下水管埋設工事をするか、あるいは同訴外人らが設置するマンホールに第二建物からの下水管を連接させるよう誘ったにもかかわらず、リヨらが言を左右にしてこれに協調しなかったため、同訴外人らが待ち切れずに下水管埋設工事をしてしまったものであり、リヨは、その後も自分自身では同訴外人らに対して下水設備をすることについて協力を求めることをせず、専ら原告に対して同訴外人らに妨害行為ありとしてその善処方を求めることに終始した。

7  右のような事情であったため、原告は、被告及びリヨに対し、再三にわたり賃料の支払いを催告したが、被告らは、原告が被告らの前記のような要求に応じない以上賃料の支払いはできないとして、これを拒否した。そこで原告は、やむなく昭和四四年五月被告及びリヨに対し、昭和三九年六月一日以降の各延滞賃料を五日以内に支払うよう催告するとともに、右期間内にその支払いがないことを停止条件とする各賃貸借契約解除の意思表示をしたが、右催告期間内に支払いがなかったため、第一土地及び第二土地の賃貸借契約は解除された(右事実は当事者間に争いがない。)。

8  そして、原告は、東京弁護士会所属の山田重雄弁護士、山田克巳弁護士らに被告らに対する建物収去土地明渡請求訴訟の提起・追行に関する訴訟行為を委任し、同弁護士らを訴訟代理人として、同年八月二五日東京地方裁判所に、被告と前記訴外高島泰治、同松山照枝、同高島幸一、同高島弘、同高島晃に対し第一建物収去第一土地明渡等を、リヨに対し第二建物収去第二土地明渡等を、また、第二建物の居住者であった訴外金子米喜知、同横山一郎ほか一名に対し第二建物退去第二土地明渡をそれぞれ求める訴訟を提起した。(同庁昭和四四年(ワ)第九二二二号事件。右訴訟提起の事実は、当事者間に争いがない。)原告は、右訴訟提起に先立ち、同月一三日山田重雄弁護士らに着手金(手数料)として三五万円を支払った。

9  これに対し、被告、リヨ、訴外金子米喜知及び横山一郎の四名のみが応訴し、被告及びリヨは、賃料不払いの正当化事由として前記5のような事実を主張したほか、各賃料債務が取立債務であったとし、また、原告のした延滞賃料支払いの催告が過大催告であった旨主張して、賃貸借契約解除の効力を争ったが、裁判所は、審理の結果、ほぼ前記6のような事実認定に基づき、被告らの賃料不払いの正当化事由に関する主張を失当として排斥し、また右取立債務の主張等もすべて理由がないものとして、昭和四九年二月二八日、原告勝訴の判決を言渡した。(右判決言渡の事実は、当事者間に争いがない。)なお、この間の昭和四六年五月二四日、原告は、前記山田弁護士らを訴訟代理人として、前記訴訟の被告らを相手方として、占有移転禁止及び処分禁止の仮処分を申請し(東京地方裁判所同年(ヨ)第三八二五号事件)、同年六月四日仮処分決定の発布を得て、同月一〇日その執行をした。(右事実は、当事者間に争いがない。)原告は、右仮処分申請手続を山田弁護士らに委任するに当たり、同年五月二四日手数料として一五万円を同弁護士らに支払った。

10  右第一審判決に対し被告及びリヨのみが控訴したので(東京高等裁判所昭和四九年(ネ)第六二〇号事件)、原告は、右山田弁護士らに訴訟委任して応訴した。(右事実は、当事者間に争いがない。)被告らは、右控訴審において、本件土地の占有権原が賃借権であるとの従来の主張を撤回し、被告が地上権を有する旨主張するに至ったが、裁判所は、昭和五一年六月二四日、控訴棄却の判決を言渡した。(右判決言渡の事実は、当事者間に争いがない。)なお、原告は、昭和四九年五月一七日、前訴第一審手続の報酬及び控訴審手続の着手金として、一〇万円を山田弁護士らに支払った。

11  被告及びリヨは、なおも右控訴審判決に対して上告したが(最高裁判所昭和五一年(オ)第一〇二二号事件)、昭和五二年四月二六日上告棄却の判決言渡があり、前記第一審判決が確定した。(右事実は、当事者間に争いがない。)

12  そこで原告は、被告及びリヨに対し、一〇〇万円の移転料の支払いを提示して任意の明渡を求めたが、被告らが一億五〇〇〇万円を要求し、かつ、任意の明渡義務履行を拒否したため、やむを得ず同年六月一七日東京地方裁判所執行官に強制執行の申立をした。

執行官は、同月二〇日及び同月二八日の二回にわたり現場に臨み、被告及びリヨに対し任意の履行を催告したが、被告らは、「判決は一方的なもので不服であり、自分の頼んだ弁護士が悪かったから負けたが、他にも証拠をもっているので裁判をする。誰が何と言っても死ぬまでここにいる。」と述べて、任意の履行を拒否した。そこで執行官は、同年七月一四日、第二建物収去の執行をするとともに、第一建物の二階の一部の収去に着手したが、リヨがその場所に寝ころんで執行を妨害したため、執行を中止した。その後、執行官は、同年一〇月二四日及び昭和五三年一月一七日の両日、現場に臨んで再度被告及びリヨに対し任意の履行を催告したが、被告らは、「判決内容には不服であるし、原告側の不正が裁判によって認められなかった以上、本件建物を死守することによって社会に訴える以外に方法がない。」旨主張して、任意の履行をあくまでも拒否する態度を示した。そこで執行官は、リヨが高令であることと被告らの生活状況に考慮を払った原告側の申出に基づき、同月三一日から昭和五四年三月五日までの間前後七回にわたり、第一建物の残余部分を一部分ずつ収去し、同月一五日その執行を了した。なお、この間原告は、再度立退料の提供を申し出て任意の履行を求めたが、被告はこれに応じなかった。

13  原告は、以上の強制執行の費用として合計五五万二八八〇円を執行官に支払った。また、原告は、昭和五二年六月二二日、前記訴訟手続の報酬として七〇万円を山田弁護士らに支払った。

二  以上の事実に照らすと、被告及びリヨは、昭和三九年六月から約五年間にわたり、何ら正当な理由がないのに本件各土地の賃料の支払いをせず、その間原告の再三にわたる催告にも応じなかったのであるから、原告がした前記各賃貸借契約解除はもとより有効であり、被告及びリヨは原告に対し、それぞれ第一建物及び第二建物を収去して本件各土地を明渡すべき義務があったことは明らかであって、被告らは、自分たちが本件各土地の占有権原を失い、原告の明渡請求に応ずべき立場に立ったことを知り若しくは少くともこれを知り得べきであったものというべきである。しかるに被告及びリヨは、原告の正当な前記建物収去土地明渡訴訟に、到底容認され得ない主張を掲げて応訴し、第一審において敗訴した後も、控訴、上告を繰り返したばかりでなく、被告ら敗訴の判決確定後も、確定判決の効力をも否認するような言動を示して、原告の再三にわたる任意明渡要求に耳を藉さず、右確定判決に基づく原告の強制執行を執拗に妨害したのであって、被告らの右のような不当な応訴、控訴、上告さらには強制執行妨害行為が原告に対する不法行為を構成することはいうまでもないところであるから、被告は、右不法行為によって原告に生じた損害を賠償すべき義務がある。

三  ところで、《証拠省略》によれば、原告は、昭和四四年八月頃は、会社役員の地位にあったが法律には全くの素人であったことが認められ、かかる原告に訴訟の中でも最も高度の専門的法律知識と技術とを要する訴訟形態の一つである建物収去土地明渡訴訟を自ら提起・追行することを期待することは極めて困難というべきであり、原告が前記訴訟を提起・追行すること及びこれに付随する仮処分申請手続を前記山田弁護士らに訴訟委任したことは、自らの正当な権利を行使するためやむを得ない行為であったというほかはない。しかして、《証拠省略》によれば、原告が山田弁護士らに支払った弁護士費用(手数料及び謝金)合計一三〇万円は、当時の東京弁護士会の弁護士報酬規定に照らして相当な範囲内のものであったと認められるから、被告らの前記不法行為と相当因果関係のある損害にあたるものと認めるのが相当である。したがって、そのうち六〇万円について被告に対しその賠償を求める原告の請求は理由がある。また、原告が出捐した前期強制執行費用五五万二八八〇円も、被告らの前記不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。(なお、民事訴訟法五五四条一項の規定は、債権者が、実体法上の理由に基づき、別訴をもって強制執行費用相当の賠償を請求することを妨げるものではないと解される。)

四  そうだとすれば、被告に対し、右弁護士費用六〇万円及び強制執行費用五五万二八八〇円の合計一一五万二八八〇円とうち六〇万円に対する昭和五二年七月二日以降、うち五五万二八八〇円に対する昭和五四年五月一七日以降各完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める原告の本訴請求は理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 魚住庸夫)

〈以下省略〉

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